『旅路の果て』フランス映画(1939年)『安らぎの郷』(2017)

私のシネマバイブル「世界映画名作全史」(猪俣勝人著)の中でフランス映画の絶品と評した作品です。一度観てみたいなあとずっと思っていましたがかなり古い作品なので諦めていました。それがアマゾンプライムで鑑賞できたのです。南フランスにある養老院で暮らす年老いた貧しい元俳優たち。若かりし頃の栄光と舞台を去った寂しさの中で日々を送っています。しかし、演劇への情熱は今も変わらず胸に秘めていて、ある者は精神が崩壊しある者は主役を無理やり得たもののセリフがでず失意の中命を落とすことに。切なくも人生の終焉をどう向き合うか考えさせられる作品です。
 この映画と重ねて2017年放送された『やすらぎの郷』が頭に浮かびました。倉本聰さん脚本で映像業界で活躍した高齢の人たちの老人ホームズを舞台としたドラマでした。昼ドラなので外出の時は録画してほぼ全話観ました。見応えありました。浅丘ルリ子さん、加賀まりこさん、八千草薫さん、野際陽子さん・・本当にたくさんの俳優さんが出てらして語ればキリがありません。心に残る大好きな作品です。2019年からは続編『やすらぎの刻〜道』が放映されこちらも良かった。特に山梨県のとある村の昭和初期からバブル崩壊までの家族の変遷。戦前の暮らし向き、満蒙開拓団で渡った人たちの終戦後の悲劇など真正面から描いて今でも記憶に残っています。8月は広島、長崎、終戦とあの時代の悲惨さを感じることが多く、このドラマが蘇ります。
 『旅路の果て』もフランス1939年製作です。ドイツがポーランドに侵攻しフランス、イギリスが宣戦布告をした時期。激しい攻撃が繰り返されヨーロッパも焦土と化してゆきます。一人の人の人生がたとへ老いへの葛藤に苦悩しようとも、命や暮らしを破壊する不条理な戦争で消し去られることなく全うできることを願います。

本との出会い、人との出会い

図書館でタイトルをなぞりながら読みたい本をゆっくり探すひととき。何気に選んだ本から人生の指針を見つけることもあります。『輝ける最晩年』サブタイトル『老人アパートの扉を開ければ』この二つの言葉のギャップに興味が湧き借本しました。これが雫石とみさんとの出会いです。もう亡くなった後の出会いでしたが、今も私にとって最も尊敬する女性の方一人です。赤貧の中両親を早く亡くし宮城から一人東京へ。日雇い労働しながらも世帯を持ちかわいい二人の娘にも恵まれ、これからという時に空襲で夫子供を亡くしたとみさん。これでもかと追い討ちをかける苦しみ悲しみの連続でした。ですがその人生のラストにこのタイトルの本を書いた彼女の輝けるものとは。資産の全てを投じて始めた『銀の雫文芸賞』老いをテーマにした作品を募集し優秀作品を表彰し冊子にまとめました。その冊子を愛おしく読んでいたとみさんが目に浮かびます。解体寸前の老人アパートの一室で、持ち物といえば行李一つに小さな文机。戦後婦人保護施設に入所し、不正、いじめ、賄賂、理不尽がまかり通る組織で自らを保ってこれたのは、紙切れに書いた短い日記でした。書くことで生きる目標を得た彼女は、65歳で『荒野に叫ぶ声』で文学賞を取り、その後作家として生きます。書くこと、伝えること、残すこと。最晩年に彼女が見つけた「輝けるもの」は権力でも富でもなく「書く」ことで心の自由を得るということでしょうか。物事に真正面に向き合い観察し、自分の考えを組み立てては壊し、壊しては組み立てる。とみさんの書く文章に迫力を感じます。ですが戦争で幼子二人亡くした思いだけは文字に書けませんでした。この8月で戦後80年。とみさんとの出会いを再び思い返しました。

『クレアモントホテル』と映画『逢びき』

 気に入った映画、気になる映画をDVDに録画して引き出しに入れたまま、かなりの年月が経ってしまいました。コロナの自粛期間を境に外出が減り映画館にも足を運ばなくなりました。整理がてら眺めていると、目に入ってきた「クレアモントホテル」とても好きな映画です。最近の映画のように思っていたけど2005年製作、もう20年も前の作品だなんてびっくりです。とにかくこの映画の世界観が好き。原作をリスペクトしながらも、さらにピュアに練り込みぐっと心に染み込んでくる感じ。キャストも流れる音楽も最高です。その主人公サラが好きな映画が『逢びき』。私もこの映画大好きです。1945年の作品で勿論録画保管したので、はいこれも見つかりました。で、この2作改めて観賞。音楽があのラフマニノフでそれだけでも私にとって贅沢な映画です。『逢びき』の原題は『Brief Encounter』訳は『短い出会い』です。クレアモントホテルのサラとルードヴィグもやはり短い出会いでしたが、とても深い縁を感じます。時代を超えてやっぱり映画はいいわ〜と別世界に飛んでいるうち、何の整理もしないで1日が過ぎました。反省です。
 今日も酷暑で外出は控えて、などとコロナ自粛の頃みたい。何だかあれから生活が変わったなあ。年齢もとっちゃったし仕方ないんだけど日常って想いもよらないことで変わっていくものですね。

レコードの味わい、ウイルヘルムと久野久さんに想う

 先日中古、廃盤レコードフェスに行ってきました。傷もあり聴くとプチプチと雑音が入ります。ですが、それすらも趣きがあるというか、音もCDより重く感じられ改めてハマってます。ウイルヘルム バックハウス演奏のベートーヴェン熱情、悲愴、月光はとても素晴らしいです。ヒットラーがファンだったということで、戦後ナチスの協力者と非難されアメリカでの演奏を拒否されたとか。でもその素晴らしい演奏はやがて世界で絶賛されます。
 このレコードを聴くと、明治大正時代に活躍された久野久さんを重ねて聴いてしまいます。日本のピアニストのパイオニア、遅すぎるピアノとの出会いでしたが、人よりも何十倍練習して芸大教授まで上り詰めました。久さんが練習した後は鍵盤が血で真っ赤に染まっていたという逸話が残っています。叩きつけるような激しさでこのベートーヴェンを演奏したのだなあと思うと、迫力の中にある切なさが伝わってきます。ベルリン留学中失意の中38歳で命をたってしまった久野久さん。レコードを聴きながら、在りし日の二人の情熱を過ぎ去った時代と共に味わっております。

郵便探偵ロストレターズミステリー

 最近ハマっているドラマです。Amazonプライムで見つけました。最初は何気なく見始めたアメリカのドラマですが、同じ作品を何度観ても飽きません。2014年にホールマークチャンネルでパイロット版が放送されてから今年5月アメリカでは20作目の新作が放送されたとか。アマゾンプライムではその内15作観られます。10年以上かけて(間コロナの影響もあったかと思いますが)丁寧に作り上げてきた作品たち。出会えて本当に良かったです。様々な事情で配達できなかった郵便物を、郵便局に勤める4人のメンバーが受取人を探し出し、手紙を届けると同時に幸せも届けるという、ちょっと大人のおとぎ話のように聞こえるかもしれませんが、いえいえとても良く練られて作られております。音楽も最高、キャストも素晴らしい。日本での放送は時系列がバラバラなので、これを順番通り見直すのもまた楽し、です。主人公のオリバーとシェインが出会ってから結婚するまでそんなに時間は経過していないのに撮影には12年という歳月が流れているため、ちょっと老けたかなという印象はありますが、とにかくブレず役を演じきってくれているので、感謝と拍手です。大好きな作品です。残りの作品も早く観たいな。Amazonさんよろしく。

昔の映画に想いを馳せる。ドイツ映画『最後の人』

創成期の映画に興味を持ったのは、猪俣勝人、田山力哉著『世界映画名作全史』を手にした時。

1974年初版の本で、それぞれの映画の解説を読む度、観てみたいと好奇心をかきたてられたものでした。『最後の人』は1924年ウーファ、ムルナウ監督エミール・ヤングス主演の映画。古すぎて諦めていましたが、『淀川長治名作DVDコレクション』(もちろん全巻そろえました。)にあり、これは嬉しかったです。

ホテルのドアマンの威厳ある制服が彼のステイタスであり誇りだった男性が、高齢となりその任が果たせないと考えた支配人から清掃の仕事に異動を命じられる。人生終焉の悲哀がにじみ出ている作品でした。解説すらない無声映画でありながら情感が伝わり良かったです。が、問題はラスト。命を助けた富豪からの遺産相続で裕福になりハッピーエンドとはなんとも軽薄。この当時ドイツは第一次大戦後多額の賠償金を命じられ、映画で外貨を稼ごうとしていました。ヴァイマール政権下のウーファはとても良質の映画を作っていましたが、ハッピーエンドの好きなアメリカの要望に応えてラストを変えたとか。もう一つ失意のまま生涯を終えるエンディングもあるようなので、そちらをみてみたいです。ナチス政権下になり、ナチスのプロパガンダとなってしまった映画会社ウーファ。時代背景、個々の人生も絡めて色々考えさせられる映画でした。